ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事47)

新シリーズ「ケーススタディで学ぶ薬事許認可のリアル」、第3回のテーマは「化粧品製造販売業における三役(総括・品責・安責)の実務と兼務のリアル」についてです。
本稿では、主に「化粧品製造販売業」を想定して解説します。第1回、第2回と、ビジネスを適法に展開するためには「製造販売業許可」が必要であることを解説してまいりました。今回は、その許可を維持し、製品の品質と安全性を適切に管理するために欠かせない「人」の要件に焦点を当てます。
化粧品製造販売業において、品質管理及び製造販売後安全管理の体制を構成する主要な責任者として、次の3名を置く必要があります。実務上、これらはまとめて「三役(さんやく)」と呼ばれることがあります。なお、製品に対する最終的な責任を負う主体は「三役個人」ではなく「製造販売業者」です。
化粧品製造販売業を支える「三役」とは?
製品の品質管理及び製造販売後安全管理を適切に行う体制を整備するため、薬機法及び同法に基づくGQP・GVP省令により、以下の3つの責任者を配置することが求められています。
- 総括製造販売責任者(総括):
品質管理及び製造販売後安全管理を行う者に指示を与え、これらの業務を監督する責任者です。品質保証責任者や安全管理責任者からの報告を受け、必要に応じて安全確保措置等を評価・決定し、経営層への意見具申も行います。第1回で解説した通り、薬剤師、薬学・化学の専門課程修了者、あるいは所定科目修得後3年以上の関連業務経験者といった厳格な資格要件が求められます。
- 品質保証責任者(品責):
GQP(品質管理基準)に基づく品質管理業務を統括し、その業務が適正かつ円滑に行われていることを確認します。化粧品においては、製造業者等において適正かつ円滑に製造されたことを確認し、市場への出荷に関する記録が適切に作成・管理される体制を確保します。
- 安全管理責任者(安責):
GVP(安全管理基準)に基づく業務の責任者です。製品が市場に出た後、消費者等から健康被害報告などの「安全管理情報」があった場合に、その情報を収集・検討し、安全確保措置案を立案して総括に文書報告を行います。
中小企業・新規参入組が陥る「兼務」の落とし穴
企業規模が大きい場合や取扱品目数が多い場合には、それぞれの役割に専任の担当者を置き、業務を分担している企業もあります。しかし、新規参入や中小規模の事業者にとって、これら3つのポストに別々の人材を雇用することは、コスト面で大きな負担となる場合があります。
そこでよくご相談を受けるのが、「一人の担当者が、三役をすべて兼務することはできないか?」という疑問です。
結論から言えば、化粧品製造販売業の場合、一定の条件の下で一人の人間が三役を兼務することは法的に可能です。
ただし、無条件に認められるわけではありません。同一所在地に勤務し、それぞれの業務に支障を来さず、兼務に合理性があり、各役職の要件を満たしていることが前提です。
ここで実務上の大きな落とし穴となるのが、「業務遂行上の支障」です。兼務体制をとる場合、以下のような事態に直面することがあります。
1. 組織・職務上の制限
品質保証責任者や安全管理責任者は、品質管理業務や安全管理業務に支障を及ぼすおそれのある部門(販売部門など)に属する者であってはならないと定められています。そのため、「社長(あるいは営業担当者)」が兼務する場合、実際の組織体制や職務内容によっては、兼務そのものが問題になる可能性があります。
2. 「名ばかり三役」では実務が回らない
ビジネスが成長し、取り扱う品目数や出荷量が増えてくると、各業務の負担が増大します。
- 品責としての業務: 必要な製造・品質管理情報を確認し、適正に製造されたことの確認と記録管理を行わなければならない。
- 安責としての業務: 顧客からのクレームや健康被害の情報(安全管理情報)に対し、情報を評価し、品質上の問題の可能性も含めて関係者と検討し、記録に残さなければならない。
- 総括としての業務: 品責と安責を監督し、両者の連携を確保するとともに、品質又は安全性に問題が生じた場合には、報告を受けて必要な措置を評価・決定しなければならない。化粧品製造販売業については、GQP・GVP省令上、総括本人に定期的な自己点検を行わせる規定はありませんが、実効的な管理体制を維持するため、自主的に運用状況を確認することは有益です。
これらを一人の担当者が日常業務と並行して行うと、対応が困難になる可能性があります。結果として、GQP・GVP業務の記録や実際の運用が追いつかず、許可更新時の調査や立入検査等において行政指導の対象となり得ます。
実務で求められる「サイエンスの視点」と連携体制
三役の実務において、製品の処方や化学的特性を理解する「サイエンスの視点」を持ち合わせることは非常に重要です。例えば、安全管理情報が入った際には、使用状況や使用者側の要因、配合成分との関連性、製造過程に起因する品質上の問題の可能性などについて、追加情報を収集・検討します。必要に応じて、品責と連携するとともに、医療専門家、製造業者、試験機関等の知見を得て対応する実働体制が求められます。
三役の兼務体制をとる場合は、その一人の担当者にこれらすべての重責と専門的な判断能力が集中することを経営層は十分に理解しておく必要があります。
まとめ
化粧品製造販売業における「三役」の実務について、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
- 化粧品製造販売業には、「総括」「品責」「安責」の三役の設置が必要である。
- 化粧品では一定の条件の下で三役の兼務が可能だが、業務に支障がない等の要件を満たす必要がある。
- 名目上の配置ではなく、必要に応じて外部専門家等とも連携し、品質と安全を担保する実働体制の構築が不可欠である。
新規参入時は兼務でスタートしたとしても、事業の成長に合わせてGQP・GVP業務を分担できる体制へと段階的に移行していく計画を立てることが、長期的なコンプライアンス維持の鍵となります。
次回の第4回は、少し視点を変えて「【事例研究】医療機器への新規参入〜その製品、本当に『雑品』で大丈夫ですか?〜」について解説いたします。次回の記事では、医療機器特有のQMS制度や責任者についても触れていく予定です。次回もぜひご期待ください。
📌 ファーマ行政書士事務所では、薬学出身の行政書士が、前職の製薬企業での創薬研究や研究支援・管理業務の経験を活かし、薬事法務コンサルティングを中心とした専門性の高いサポートを提供しております。薬機法に関するご相談や、医薬品・化粧品ビジネスの許認可、事業承継など、お困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

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1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。
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