ファーマ行政書士ブログ(薬事41)

「薬事法の変遷シリーズ」の第15回では、2013年改正後の新体制を定着させるための「移行期」と、危険ドラッグの完全撲滅、そして次なる法改正に向けた通知レベルでの先行運用について解説しました。

続く第16回となる今回は、現在の薬事実務の直接的な法的基盤となっている2019年(令和元年)の薬機法改正について紐解いていきます。この改正は内容が極めて多岐にわたり、かつ現在の企業法務や医療現場に直結する重要テーマであるため、今回から全3回に分けて詳細に解説いたします。

前編となる本記事では、研究開発から承認プロセスまでの抜本的な見直しが行われた「革新的な医薬品・医療機器等の早期実用化」に関する法改正のポイントに迫ります。

1. 先行運用制度の法制化(先駆的医薬品等・条件付き承認)

第15回で触れた通り、数年前から通知レベルで先行運用(試行)されていた早期承認の仕組みが、その運用実績を踏まえてついに薬機法上の正式な制度として法制化されました。この際、制度の名称も法律に基づく正式なものへと改められました。

  • 先駆的医薬品等指定制度(旧:先駆け審査指定制度): 世界に先駆けて日本で開発される画期的な新薬や医療機器等を指定し、優先相談や優先審査を行うことで、承認までの期間を大幅に短縮する制度です。
  • 条件付き承認制度(旧:条件付き早期承認制度): 重篤な疾患であって有効な治療方法が乏しく、かつ患者数が少ないこと等により検証的臨床試験(第III相試験)の実施が困難な医薬品等について、一定の有効性と安全性が確認された段階で、「市販後の有効性・安全性の評価」などを条件として早期に承認を与える仕組みです。

これらが法律に明記されたことで、制度の安定性と予見性が高まり、企業が画期的な製品の開発により投資しやすい法的基盤が整いました。

2. ニーズに応える「特定用途医薬品等指定制度」の創設

上記の2制度に加え、医療上の必要性が高いにもかかわらず開発が進みにくい領域を支援するため、新たに「特定用途医薬品等」という指定制度が設けられました。

小児用の医薬品や、近年世界的な課題となっている薬剤耐性(AMR)菌に有効な抗菌薬など、特定の用途において特に医療上のニーズが高いと認められる医薬品等を厚生労働大臣が指定し、優先的な審査や開発支援を行うための枠組みです。

3. 製造方法等の柔軟な変更を可能にする「PACMP」の導入

医薬品の品質を維持しつつ、製造工程の継続的な改善や安定供給を図るための画期的な仕組みとして、「変更計画の事前確認制度(PACMP:Post-Approval Change Management Protocol)」が導入されました。

これまで、承認取得後に製造方法等の一部を変更する場合、変更の都度、事前の承認事項一部変更承認(一変承認)を取得する必要があり、製品改良のハードルとなっていました。 PACMP制度では、企業があらかじめ「変更内容や品質評価の方法を定めた計画(プロトコル)」を提出して確認を受けておけば、実際の変更時には一変承認を経ることなく、新設された「事前の届出(変更計画に従った変更に係る届出)」を行うのみで、迅速に変更を実行できるようになりました。これにより、改良にかかる期間が劇的に短縮されます。

4. 医療機器の特性(継続的改良・AI等)に対応した承認制度

医薬品とは異なり、医療機器は市販後も継続的に改良が加えられるという特性を持ちます。さらに近年では、AI(人工知能)を用いたプログラム医療機器など、学習によって市販後に性能が変化(進化)する技術が登場してきました。

従来の「変更のたびに承認審査を行う」制度では、こうした技術革新のスピードに対応できません。そこで令和元年改正では、医療機器の特性を踏まえた変更計画の確認制度(いわゆるIDATEN制度)が導入されました。 初期の承認申請時等に、あらかじめ「性能等の変更計画」を提出して「確認」を受けておけば、その計画の範囲内で行われる改良・変更については、都度の一部変更承認を要せず、PACMPと同様に新設された「事前の届出(変更計画に従った変更に係る届出)」を行うのみで迅速に市場に提供できるという、極めて現代的な承認枠組みです。

次なる法改正の波へ(次回予告)

令和元年改正(前編)では、医薬品や医療機器の「開発から承認」におけるアジャイルな法整備について解説しました。PACMPや新しい医療機器の承認制度など、科学技術の進歩に法規制を適合させる重要なステップアップが図られたことがわかります。

次回の第17回では、「令和元年改正(中編)」として、社会構造の変化に対応した「薬局・薬剤師のあり方の見直し」を取り上げます。 超高齢社会を迎える日本において、薬の専門家である薬剤師の役割が「対物(調剤)」から「対人(患者フォロー)」へといかにシフトし、新たな薬局の認定制度(地域連携薬局・専門医療機関連携薬局)が誕生したのかに迫ります。

さらにその次の第18回(後編)では、令和元年改正の最後の柱であり、最も施行が遅かった(令和3年8月施行)「法令遵守体制の厳格化(課徴金制度の創設等)」へと進んでいきますので、どうぞご期待ください。

📌 ファーマ行政書士事務所では、薬機法に基づく許認可取得から、最新の規制動向を踏まえた事業戦略の法務サポートまで、ヘルスケアビジネスを専門的に支援しております。コンプライアンス体制の構築等でお悩みの際は、ぜひファーマ行政書士事務所へご相談ください。

👉 [お問い合わせはこちら]

投稿者プロフィール

粂 昌治
粂 昌治
1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。