ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事39)

「薬事法の変遷シリーズ」の第13回では、「薬事法」から「薬機法」へと名称が変わり、医療機器の独立と再生医療等製品の創設をもたらした2013年(平成25年)の抜本改正(平成25年法律第84号)について解説しました。

続く第14回となる今回は、この抜本改正と同じタイミング(同年秋の臨時国会)で成立した、もう一つの極めて重要な薬事法改正(平成25年法律第103号)について紐解いていきます。

企業側のモノづくり(製造・開発)のあり方を大きく変えたのが法律第84号だとすれば、こちらの法律第103号は、一般の消費者が薬局やドラッグストアで薬を買う際の「市販薬の販売ルール」を根本から整備した、私たちの日常生活に直接関わる法整備でした。

1. 司法が動かした歴史~市販薬ネット販売の違法判決~

2000年代後半から、インターネットを通じた一般用医薬品(OTC医薬品)の販売の是非を巡り、大きな議論が巻き起こっていました。

国(厚生労働省)は医薬品の安全な提供を重視し、2009年の省令改正によって、リスクが比較的高い第1類および第2類医薬品のインターネット販売を一律に規制しました。しかし、これに対してネット販売事業者側が「法律(薬事法)の明確な委任がないまま、省令(厚労省のルール)だけで販売の権利を制限するのは違法である」として国を提訴したのです(いわゆるケンコーコム事件)。

そして2013年(平成25年)1月、最高裁判所は「省令による一律の販売規制は、法律の委任の範囲を逸脱しており違法・無効である」との画期的な判決を下しました。 この歴史的な司法判断を受け、国は省令レベルでの規制を改め、「法律(薬事法)」そのものを改正することで、インターネット販売(特定販売)の明確なルール化に踏み切ることになったのです。

2. 一般用医薬品のネット販売解禁と「要指導医薬品」の創設

最高裁判決を受けて成立した本改正により、医薬品の販売体制は以下のように再構築されました。ここで、2006年改正(第12回)で導入された「登録販売者」の存在が大きく機能することになります。

一般用医薬品のネット販売のルール化

第1類から第3類までのすべての一般用医薬品について、一定のルール(実店舗が存在すること等)を満たせば、インターネットによる販売(特定販売)が可能であることが法律上明確に規定されました。 この際、専門家の関与が厳格に区分されており、リスクの高い「第1類」は薬剤師しか取り扱うことができませんが、「第2類・第3類」については、登録販売者でも販売や情報提供が可能とされました。

新たなカテゴリー「要指導医薬品」の創設

すべての薬が直ちにネット解禁されたわけではありません。医療用医薬品から市販薬に転用(スイッチOTC)されたばかりでリスクが確定していない薬や、劇薬などについては、ネット販売の対象から除外し、薬剤師による対面での情報提供と指導を義務付ける「要指導医薬品」という新たなカテゴリーが創設されました。 ただし、要指導医薬品は永遠に対面販売に据え置かれるわけではありません。販売後に副作用等のデータが蓄積され、安全性が確認されると(通常3年)、ネット販売が可能な「第1類医薬品」へと移行(格下げ)されるダイナミックな仕組みとなっています。

これにより、消費者の「利便性(ネット購入)」と「安全性(対面での専門的指導)」のバランスを法律レベルで精緻に担保する、現在の市販薬販売ルールの骨格が完成したのです。

次なる法改正の波へ(次回予告)

2013年(平成25年)は、日本のヘルスケア産業の構造を変えた「薬機法」の誕生(法律第84号)と、最高裁判決を経て消費者の生活を守る「ネット販売のルール化」(法律第103号)が行われた、薬事法制の歴史において最も劇的な年でした。

次回の第15回では、この巨大な法改正の波が過ぎ去った後の「薬機法体制の定着と、次なる法制化への助走(2014年〜2018年の移行期)」に視点を移します。 この期間に施行・成立した「危険ドラッグへのトドメ(所持・使用等の全面禁止)」という重要な規制強化と、次なる大きな法改正(令和元年改正)に向けて実務の裏側で始まっていた「通知レベルでの先行運用」のプロセスに迫りますので、どうぞご期待ください。

📌 ファーマ行政書士事務所では、薬機法に基づく許認可取得から、最新の規制動向を踏まえた事業戦略の法務サポートまで、ヘルスケアビジネスを専門的に支援しております。コンプライアンス体制の構築等でお悩みの際は、ぜひファーマ行政書士事務所へご相談ください。

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投稿者プロフィール

粂 昌治
粂 昌治
1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。