ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事38)

「薬事法の変遷シリーズ」の第12回では、2006年(平成18年)改正における一般用医薬品の販売体制の見直しと、違法ドラッグ対策としての指定薬物制度の創設について解説しました。

続く第13回となる今回は、日本のヘルスケア法制が全く新しい次元へと突入した歴史的転換点、2013年(平成25年)11月27日公布・2014年(平成26年)11月25日施行の抜本改正について紐解いていきます。

1960年(昭和35年)の制定以来、半世紀以上にわたって親しまれてきた「薬事法」という名称が姿を消し、現在の「薬機法」が誕生した極めて重要な法改正です。

1. 「薬事法」から「薬機法」への名称変更

医療技術の急速な進歩により、従来の「医薬品」や、2002年改正で国際基準に合わせて大幅に見直された「医療機器」という2大枠組みだけでは、多様化する最先端の医療プロダクトを適切に規制・管理することが難しくなっていました。

そこで、実態に合わせた規制の枠組みを見直す大幅な法改正が行われ、それに伴い法律の名称が「薬事法」から「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」へと改められました。この長い名称の略称として、現在実務で広く使われている「薬機法(やっきほう)」という言葉が誕生したのです。名称に「医療機器等」が明記されたことからもわかるように、医薬品以外の製品カテゴリーが法的に極めて重要視される時代への突入を象徴しています。

2. 医療機器規制の完全独立とQMS体制の進化

長らく医薬品の規制枠組みから段階的に独立を進めてきた医療機器ですが、この2013年改正によってついに医薬品の章から完全に切り離され、医療機器の特性(機械工学的な構造やIT技術)に合わせた専用の章が設けられました。主なポイントは以下の通りです。

QMS(品質管理)適用の主体の移行

2002年改正で導入された医療機器のQMS基準は、主に「製造業者(工場)」が対象でした。しかし本改正により、製造販売業者に課せられていた品質保証(GQP)がQMSに統合されました。これにより、元売りである「製造販売業者」がQMSの主体となり、設計開発から製造工程までサプライチェーン全体を管理・監督するという現在の体制へと大きく進化しました。

第三者認証制度の拡大

リスクが比較的低い医療機器について、国(PMDA)ではなく民間の「登録認証機関」が審査・認証を行う制度が大幅に拡大され、迅速な市場投入が図られました。

「単体プログラム(ソフトウェア)」の医療機器化

従来はハードウェア(モノ)に組み込まれたソフトウェアのみが規制対象でしたが、スマートフォンやPCにインストールして診断等に用いる「プログラム単体」も医療機器として法規制の対象に加わりました。

3. 第3のカテゴリー「再生医療等製品」の新設

本改正のもう一つの目玉が、医薬品でも医療機器でもない、全く新しい第3のカテゴリーとして「再生医療等製品」が定義・新設されたことです。

iPS細胞や体性幹細胞などを利用した再生医療等製品は、人の細胞を培養して作られるため、製品ごとの均質化が難しく、従来の「多数の患者で有効性を証明してから承認する」という仕組みでは、実用化までに膨大な時間がかかってしまうという課題がありました。 そこで、有効性が「推定」され、安全性が確認された段階で、「条件及び期限付承認」を与えるという画期的な早期承認制度が導入されました。これにより、日本発の最先端の再生医療技術を、いち早く必要とする患者さんの元へ届ける法的な土台が完成したのです。

次なる法改正の波へ(次回予告)

2013年(平成25年)の改正により「薬機法」へと生まれ変わった本法は、医療機器の独立と再生医療等製品の創設を通じて、最先端テクノロジーの社会実装を後押しする現代的な法律へと進化を遂げました。

しかし、法律は制定されて終わりではありません。次回の第14回では、この巨大な抜本改正から次なる2019年改正までの間にあたる、2014年〜2018年の「新法定着と法制化への助走期間」に焦点を当てます。

この数年間は、2013年改正のタイミングで盛り込まれた危険ドラッグに対するトドメの法改正(所持・使用の全面禁止)以降、大規模な改正は行われませんでした。その代わり、新しい薬機法の枠組みを現場に定着させるとともに、のちの2019年改正で正式に法制化される「先駆け審査指定制度」や「条件付き早期承認制度」などが、まずは「通知」のレベルで先行運用(試行)されていた時期でもあります。

いきなり法律ができるのではなく、行政指導や通知によるトライアルを経て、実務の課題を洗い出してから法律へと格上げしていくという、薬事行政の極めてリアルなプロセスと歴史のグラデーションに迫ります。どうぞご期待ください。

📌 ファーマ行政書士事務所では、薬機法に基づく許認可取得から、最新の規制動向を踏まえた事業戦略の法務サポートまで、ヘルスケアビジネスを専門的に支援しております。コンプライアンス体制の構築等でお悩みの際は、ぜひファーマ行政書士事務所へご相談ください。

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投稿者プロフィール

粂 昌治
粂 昌治
1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。