ファーマ行政書士事務所(薬事37)

「薬事法の変遷シリーズ」の第11回では、2002年(平成14年)の抜本改正による「製造販売業」の誕生と、医薬品製造のアウトソーシング全面解禁という、製薬業界のビジネスモデルを根底から変えた構造改革について解説しました。
続く第12回となる今回は、企業側の「モノづくり・品質管理」というテーマから少し視点を変え、私たちの日常生活に極めて密接に関わる2006年(平成18年)の薬事法改正について紐解いていきます。
この改正は、大きく2つの社会的要請を背景に行われました。一つは、消費者が一般用医薬品(大衆薬)をより安全かつ適切に選択・使用できる環境を整備すること。そしてもう一つは、当時深刻な社会問題となっていた「違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)」による健康被害を食い止めることでした。
1. 一般用医薬品のリスク区分と「登録販売者」制度の創設
それまで、薬局やドラッグストアで販売される一般用医薬品(OTC医薬品)は、副作用などのリスクに応じた明確な法的な分類がされておらず、また販売できるのは原則として薬剤師に限られていました。しかし、国民のセルフメディケーション(自己治療)の推進が求められる中、消費者の利便性向上と安全性の確保を高いレベルで両立させる必要がありました。
そこで、2006年の改正では以下の画期的な制度が導入されました。
リスクに応じた3区分の導入
一般用医薬品を、副作用等による健康被害のリスクの程度に応じて「第1類」「第2類」「第3類」の3つに明確に分類しました。
「登録販売者」制度の新設
リスクが比較的高い第1類医薬品は引き続き薬剤師による対面販売・情報提供が義務付けられましたが、第2類および第3類については、新たに創設された都道府県知事認定の専門資格である「登録販売者」がいれば販売できるようになりました。
これにより、消費者は専門家からの適切な情報提供を受けつつ、身近なドラッグストア等でいつでも安全に市販薬を購入できる体制が整い、現在の一般用医薬品販売のスタンダードが確立したのです。
2. 社会問題化した「違法ドラッグ」への指定薬物制度の導入
もう一つの大きな柱が、公衆衛生を著しく脅かしていた「違法ドラッグ(当時の呼称で脱法ドラッグ、のちの危険ドラッグ)」への強力な規制です。
当時は、麻薬や覚せい剤の化学構造をわずかに変え、既存の法の網目をかいくぐる幻覚作用等の強い薬物が「お香」や「ハーブ」などと称して販売されていました。これを使用した者による健康被害や重大な交通事故が多発していましたが、従来の薬事法では、これらの「医薬品として販売されていない未知の化学物質」を迅速に取り締まることが困難でした。
この危機的状況を打破するため、2006年改正で新たに「指定薬物」という制度が創設されました。 中枢神経系に作用し、健康被害が発生するおそれがある物質を速やかに「指定薬物」として指定し、医療等の正当な目的以外での製造、輸入、販売、授与などを全面的に禁止するという、極めて強力な規制の網を被せたのです(※なお、単純所持や使用の禁止は後の2013年改正で追加されます)。
3. 「国民の生活と安全」に直結する法整備
この2006年改正は、医薬品のプロフェッショナルだけでなく、広く「一般の消費者」が薬とどう安全に関わるか、そして危険な化学物質からいかに国民の命を守るかという、薬事法の「公衆衛生の盾」としての役割が色濃く反映された法改正と言えます。
次なる法改正の波へ(次回予告)
2006年改正により、一般用医薬品の安全な販売体制と、違法ドラッグを封じ込める指定薬物制度が確立しました。私たちの生活の安全を守るための重要なピースが揃ったことになります。
次回の第13回では、いよいよ半世紀以上親しまれてきた「薬事法」という名称が姿を消し、日本のヘルスケア法制が新たな次元へと突入する2013年(平成25年)の抜本改正へと歴史の針を進めます。 「医薬品医療機器等法(薬機法)」の誕生、医療機器規制のさらなる独立、そして「再生医療等製品」という全く新しいカテゴリーの創設など、現代の最先端法規への架け橋となる最重要テーマを取り上げますので、どうぞご期待ください。
📌 ファーマ行政書士事務所では、薬機法に基づく許認可取得から、最新の規制動向を踏まえた事業戦略の法務サポートまで、ヘルスケアビジネスを専門的に支援しております。コンプライアンス体制の構築等でお悩みの際は、ぜひファーマ行政書士事務所へご相談ください。
投稿者プロフィール

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1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。
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