ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事40)

「薬事法の変遷シリーズ」の第14回では、最高裁判決を受けて一般用医薬品のネット販売がルール化された「もう一つの2013年改正(平成25年法律第103号)」について解説しました。

続く第15回となる今回は、いきなり次の大規模な法改正へと飛ぶのではなく、少し視点を変えて、2013年改正後から2019年改正までの数年間(2014年〜2018年)の「移行期」における薬事行政の動きを取り上げます。

この期間は、特定の課題(危険ドラッグ対策)を除き、業界全体を揺るがすような大きな法改正が行われなかった「法改正の踊り場」とも言える時期でした。しかし、行政や実務の現場がただ立ち止まっていたわけではありません。次なる法体系の進化に向けた、重要な「助走」が行われていた期間でもあります。

1. 巨大な新枠組み「薬機法体制」の定着期間

2013年(平成25年)の抜本改正は、法律の名称が「薬事法」から「薬機法」に変わるほどの極めて大規模な構造改革でした。 医療機器が独自の規制体系へと切り離され、製造販売業者がQMS(品質管理システム)の主体となる体制への移行や、全く新しい「再生医療等製品」の枠組みを実務に落とし込む作業など、行政側も業界側も、まずはこの巨大な新ルールを正しく解釈し、現場に定着させるために多大な労力を費やす必要がありました。

そのため、2014年から2018年までの間は、新たな法改正は一旦落ち着き、新体制を社会に軌道に乗せるための期間として機能したのです。

2. 危険ドラッグへの完全なるトドメ~2014年(平成26年)の規制強化~

この移行期において、唯一ピンポイントで行われた極めて重要な法規制の強化があります。それが、社会問題化していた危険ドラッグ(指定薬物)の完全撲滅です。

前回の第14回で解説した2013年の法改正(法律第103号)により、指定薬物の「所持・使用・購入・譲り受け」の禁止が規定され、これが2014年(平成26年)4月に施行されました。これにより、消費(需要)側を直接処罰するルートが完成しました。

しかし、指定薬物に指定される前の「未知の化学物質(危険ドラッグ)」を販売し続ける悪質な業者が依然として存在しました。そこで国は、同年11月にさらに薬機法を一部改正(平成26年法律第122号)し、以下の強力な権限を行政に持たせました。

  • 指定薬物である「疑いがある」物品の検査の実施
  • 検査結果が出るまでの間、その物品の広域な販売停止命令

「指定されてから取り締まる」という後手後手の対応から、「疑わしければ販売を止めさせる」という強力な規制へと踏み込んだことで、危険ドラッグを販売する実店舗やネットショップは壊滅状態となり、事実上の「完全なるトドメ」が刺されたのです。

3. 通知レベルでの先行運用~次なる法制化への助走~

薬機法体制の定着と危険ドラッグの撲滅が進む裏側で、医薬品の承認審査の現場では、次なる進化に向けた「試行(トライアル)」が始まっていました。

いきなり新しい制度を法律として制定するのではなく、まずは厚生労働省からの「通知」という行政ルールのレベルで新しい制度をスタートさせ、実務の中で運用実績を積み重ねるというアプローチです。この期間に、以下の重要な制度が通知レベルで先行運用されました。

  • 先駆け審査指定制度(2015年試行): 世界に先駆けて日本で開発される画期的な新薬等を指定し、優先的かつ迅速に審査を行う制度。
  • 条件付き早期承認制度(2017年試行): 重篤な疾患で有効な治療法がなく、かつ患者数が少ない医薬品等について、一定の条件付きで早期に承認を与える制度。

これらの制度は、数年間の実務運用を通じて課題の洗い出しやルールの精緻化が行われました。そして「法律上の制度として運用する機が熟した」と判断されたことで、次なる2019年(令和元年)の薬機法改正において、確固たる地位を持つ「法定化」へとステップアップすることになります。

次なる法改正の波へ(次回予告)

通知レベルでの運用という「助走」期間を経て、制度はいよいよ法律へと格上げされます。

次回の第16回からは、現在の実務の直接的な法的基盤となっている2019年(令和元年)の薬機法改正に突入します。この改正は内容が極めて多岐にわたるため、全3回シリーズに分けて詳細に解説いたします。 まずはその第1弾(前編)として、助走期間を経て法制化された「先駆け審査指定制度」や、承認プロセスを革新した「PACMP」、医療機器・AIに対応した「IDATEN」など、革新的な医薬品・医療機器の早期実用化と承認制度の進化に迫りますので、どうぞご期待ください。

📌 ファーマ行政書士事務所では、薬機法に基づく許認可取得から、最新の規制動向を踏まえた事業戦略の法務サポートまで、ヘルスケアビジネスを専門的に支援しております。コンプライアンス体制の構築等でお悩みの際は、ぜひファーマ行政書士事務所へご相談ください。

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投稿者プロフィール

粂 昌治
粂 昌治
1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。