ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事36)

「薬事法の変遷シリーズ」の第10回では、ソリブジン事件という悲惨な薬害を契機に、1996年(平成8年)公布・1997年(平成9年)施行の法改正で、医薬品開発から市販後までの「GxP(GLP・GCP・GPMSP)体制」が確立された歴史を解説しました。
続く第11回となる今回は、日本の薬事法史上、「最大規模の構造改革(パラダイムシフト)」と言っても過言ではない、2002年(平成14年)の薬事法抜本改正について紐解いていきます。現在の製薬・医療機器ビジネスの根幹をなす「製造販売業」という概念は、まさにこの時に誕生しました。
1990年代後半までにGxP体制が整備され、日本の医薬品の品質・有効性・安全性に関するルールは国際水準(ICH)へと引き上げられました。しかし、2000年代に入ると、世界の製薬産業はさらなる激動の時代を迎えます。 バイオテクノロジーの台頭やグローバルサプライチェーンの複雑化により、一社単独で「研究・開発・製造・販売」のすべてを抱え込む従来の垂直統合型のビジネスモデルが限界を迎えつつありました。
これに対応するため、2002年(平成14年)の薬事法改正では、法律の根底を流れる「モノづくり」の概念そのものを根本から覆す、極めてドラスティックな制度変更が行われました。
1. 「製造」と「販売」の完全分離(製造販売業の創設)
それまでの薬事法は、自ら工場を持ち、自ら医薬品を製造する「製造業」を中心とした法体系でした。承認(ライセンス)は製造業者が持つものであり、原則として「自社工場で作ったものを、自社で売る」ことが大前提でした。
しかし、2002年の改正により、物理的にモノを作る「製造業」と、市場へ製品を出荷し、その後の全責任を負う「製造販売業(元売業)」が法的に完全に分離されました。 これにより、医薬品の承認(ライセンス)を取得し、製品の最終責任を負う主体は「製造販売業者」へと移行しました。現在の薬機法実務で最も重要となる「製造販売業(Marketing Authorization Holder:MAH)」という全く新しい業態が、ここに誕生したのです。
2. 製造の「アウトソーシング」全面解禁とファブレス企業の台頭
「製造販売業」が創設されたことで、製薬業界のビジネスモデルは劇的に変化しました。最大のインパクトは、医薬品製造の外部委託(アウトソーシング)が全面的に解禁されたことです。
自社工場(製造業の許可)を一切持っていなくても、「製造販売業」の許可さえ取得すれば、製造の全工程を国内外の委託製造工場(CMO/CDMO)に任せ、自社ブランドの医薬品として市場に出荷することが可能になりました(ファブレス製薬企業の誕生)。
この「外部委託の全面解禁」は、製薬業界におけるリソースの最適化と水平分業を一気に加速させた、極めて画期的な規制緩和でした。
3. 新たな責任体制「GQP」と「GVP」の導入
製造の全面委託が可能になった一方で、「自社で作っていない製品」の品質と安全性をどう担保するのか、という新たな課題が生じます。 そこで、製造販売業者に対し、工場を持たずとも製品の全責任を負うための厳格なシステム構築が新たに義務付けられました。
GQP(品質保証の基準)
製造販売業者が、委託先の製造工場(国内外)を監督し、市場に出荷してよいかを判定(出荷判定)するための「品質保証」の基準です。ここでついに、工場の「品質管理(GMP)」の上に立つ、元売りの「品質保証(QA)」という概念が法的に確立しました。
GVP(安全管理の基準)
第10回で解説したGPMSPから「市販後の安全管理(情報収集や回収などの措置)」の部分を独立・強化させた基準です。
製造販売業者は、このGQPとGVPという両輪(システム)を適切に回すことで、初めて市場への出荷が許される体制となったのです。(※なお、医療機器においては、この改正でGMPから国際規格ISO13485をベースとした「QMS省令」へと移行し、モノづくりと品質保証のあり方が大きく進化しました)
2002年(平成14年)の改正は、工場中心の「製造承認制度」から、市場責任を中心とする「製造販売承認制度」へとパラダイムシフトを起こし、現在のグローバルな水平分業体制の法的基盤を完成させました。現在の製薬実務における契約管理や外部マネジメントの重要性は、すべてこの改正から始まっています。
次なる法改正の波へ(次回予告)
さて、次回の第12回では、企業側の「モノづくり・品質管理」というテーマから少し視点を変え、私たちの日常生活に極めて密接に関わる2006年(平成18年)の薬事法改正を取り上げます。
この改正は、大きく2つの社会問題に対応するものでした。ひとつは、消費者が一般用医薬品(大衆薬)をより安全かつ適切に選択・使用できるようにするための「リスク区分」と「登録販売者」制度の導入。もうひとつは、当時深刻な社会問題となっていた違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)による健康被害を食い止めるための「指定薬物」制度の創設です。 薬事法が、いかにして一般市民のセルフメディケーションを支え、同時に危険な化学物質から公衆衛生を守る「盾」となったのか、その歴史的背景に迫ります。どうぞご期待ください。
📌 ファーマ行政書士事務所では、薬機法に基づく許認可取得から、最新の規制動向を踏まえた事業戦略の法務サポートまで、ヘルスケアビジネスを専門的に支援しております。コンプライアンス体制の構築等でお悩みの際は、ぜひファーマ行政書士事務所へご相談ください。
投稿者プロフィール

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1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。
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