ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事34)

「薬事法の変遷シリーズ」の第8回では、1993年公布・1994年施行の改正法により、医薬品の「GMP(製造管理および品質管理の基準)」が許可要件として法的に完全に義務化された歴史について解説しました。
続く第9回となる今回は、同じ1994年(平成6年)に公布された「薬事法の一部を改正する法律(平成6年法律第50号)」による、医療用具(現在の医療機器)に係る一連の抜本的な法改正について紐解いていきます。
長らく医薬品と同じ枠組みの中で管理されてきた医療用具が、その独自の特性に合わせた規制体系へと歩み始めた、非常に重要な歴史的転換点です。
1. 医薬品規制の「オマケ」からの脱却
1980年代までの薬事法において、医療用具(現在の医療機器)は、基本的に「医薬品の規制を準用する」という形で管理されていました。つまり、化学物質である「薬」のルールを、機械や器具である「モノ」に無理やり当てはめていた側面がありました。
しかし1990年代に入ると、ME機器(医用電子機器)や体内植え込み型デバイスなど、医療用具の高度化・複雑化が急速に進みます。同時に、高齢化社会を背景とした「在宅医療」が普及し始めました。この時期の医療用具のテクノロジーの進化と、医療提供体制(病院から在宅へ)の変化のスピードは凄まじく、もはや従来の「医薬品の延長線上にある規制」では実務との乖離が生じ、患者さんの安全を守り切れないことが明らかになっていたのです。
2. 1994年(平成6年)改正の大きな柱
こうした背景から、1994年に医療用具に対する規制が抜本的に見直されました。その中核をなすのが、以下の新しい制度の創設です。
①実態に即した「修理業」許可制度の創設
従来、医療用具の修理は法的に「製造の一類型」と解釈されていました。そのため、修理を行うには重い「製造業」の許可が必要でした。しかし、高度化する機器のメンテナンスを専門業者が担うニーズが高まる中、修理にまでフルスペックの製造業許可を求めるのは実務上非現実的でした。そこで、安全性を確保しつつ実態に即した体制を構築するため、製造業から切り離された独立の業態として「修理業」の許可制度が創設されました。
②在宅医療に対応した「賃貸業(レンタル)」への規制適用
1980年代後半から在宅酸素療法(HOT)などが普及し、患者さんが自宅で高度な医療用具を使用するケースが急増しました。これらは購入ではなく「レンタル」されるのが実態でしたが、従来の薬事法は「販売」しか想定しておらず、再利用される機器の保守点検や衛生管理の責任の所在が曖昧でした。そこで、条文上の「販売業」に「及び賃貸業」という文言が併記・追加され、レンタル業務も販売業と同等の法的規制(適正管理の義務)の対象として明確に位置付けられました。
③独立した「医療用具GMP」と「不具合報告義務」の導入
化学物質である医薬品と、機械工学の結晶である医療用具では、製造工程におけるリスクが根本的に異なります。そのため、医薬品のルールの単なる使い回しではなく、法律の規定に基づき、医療用具の特性に特化した独立省令「医療用具の製造管理及び品質管理規則(平成7年制定)」が新たに生み出されました。また、医薬品の「副作用」とは異なる、機器特有の「不具合」による重大な健康被害等を知った場合に、国へ報告することを義務付ける「不具合報告制度」が法定化されました。
3. 現在の医療機器ビジネスの基盤として
1994年のこの改正は、医療用具が医薬品の陰から自立し、「モノの特性(物理的・機械的リスク)」に応じた独自の法規制を獲得した歴史的な第一歩です。 この時の「専用GMPの誕生」や「不具合報告義務」といった枠組みは、その後の2002年改正(医療機器への名称変更、および市場の声を設計にフィードバックするQMS省令への進化)へとシームレスに繋がり、現在の精緻な医療機器法務の土台を形成しています。
次なる法改正の波へ(次回予告)
医療用具が独自の進化を遂げた1994年改正を経て、次回の第10回では、再び医薬品の規制史へと焦点を戻します。
1993年(平成5年)、抗ウイルス剤と抗がん剤の併用によって多数の死者を出した悲惨な「ソリブジン事件」が発生しました。この重い教訓を契機として、治験(臨床試験)の適正化と市販後安全対策の抜本的強化が強く叫ばれることとなります。
そこで次回は、この事件を背景として1996年(平成8年)に公布され、翌1997年(平成9年)に施行された薬事法等の一部を改正する法律(平成8年法律第104号)を取り上げます。 この改正法の施行と歩調を合わせる形で、「GLP(非臨床試験)」や「GCP(臨床試験)」、さらには市販後の安全対策を担う「GPMSP」といった基準がそれぞれ「省令」として制定・施行されました。現代の創薬実務を強力に縛る「GXP体制」が本格稼働する歴史的瞬間へと迫りますので、どうぞご期待ください。
📌 ファーマ行政書士事務所では、薬機法に基づく許認可取得から、最新の規制動向を踏まえた事業戦略の法務サポートまで、ヘルスケアビジネスを専門的に支援しております。コンプライアンス体制の構築等でお悩みの際は、ぜひファーマ行政書士事務所へご相談ください。
投稿者プロフィール

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1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。
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