ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事8)

2025年5月21日に公布された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第37号)の解説シリーズ、第8弾です。

本改正は、薬機法(医薬品医療機器等法)だけでなく、医療法も一体となって改正されている点が特徴です。

第4弾・第5弾ブログでは、薬機法改正による「特定医薬品」 の定義と、「特定医薬品供給体制管理責任者」 の設置義務について解説しました。これらは、企業が供給リスクを把握し、行政へ報告・連携する「体制」を定めたものです。

今回は、その「特定医薬品」を基盤とし、医療法側から医薬品の安定供給確保を図るための、より強力な行政の関与と製造販売業者の責務について解説します。

改正の背景:行政による安定供給への強力な関与

近年の医薬品供給不安の問題を受け、今回の法改正では、行政が医薬品の安定供給に実効的に関与できる枠組みが医療法に新設されました。

薬機法が製造販売業者等の「体制整備」と「報告義務」 を中心に定めているのに対し、医療法は、国民への医療提供の観点から、国が「指針」を策定し、必要に応じて製造販売業者等に「指示」や「要請」を行う権限 を定めています。

改正のポイント①:「供給確保医薬品」及び「重要供給確保医薬品」の指定

まず、医療法において、安定供給を確保すべき医薬品が二段階で定義されました。

1.供給確保医薬品(医療法 第37条第4項)

薬機法で定める「特定医薬品」 (医療用医薬品の大部分)のうち、疾病の重篤度、代替薬の有無、製造の特殊性などを勘案し 、厚生労働大臣が指定するものです。 (2025年11月10日付の官報で、この「供給確保医薬品」が具体的に指定されました。)

2.重要供給確保医薬品(医療法 第38条第1項)

上記1. の「供給確保医薬品」のうち、供給不足が国民の生命・健康に「重大な」影響を与えるおそれがあるものとして、さらに重要度が高いものが指定されます 。 (同じく11月10日付官報で、これも指定されています。)

改正のポイント②:「安定供給確保指針」の策定(医療法 第37条)

国は、これら「供給確保医薬品等」の安定供給を図るため、具体的な「安定供給確保指針」(ガイドライン)を定めることとされました 。

この指針には、供給不足の「未然防止」策や、不足が「発生した場合」の製造・輸入に関する事項などが定められます 。 (これも11月10日付官報により、「供給確保医薬品等の安定的な供給の確保を図るための指針」として発出されました。)

改正のポイント③:製造販売業者等への「計画策定指示」

今回の医療法改正の核心は、国が製造販売業者等に対して、安定供給に関する具体的な計画の策定を「指示」できるようになった点です。

🔸 供給不足防止措置計画(医療法 第38条)

「重要供給確保医薬品」について、供給不足の「蓋然性がある」と認める場合、厚労大臣は製造販売業者等に対し、指針に即して「供給不足防止措置計画」の作成・届出を指示 できます。

🔸 製造等計画(医療法 第38条の2)

さらに事態が進み、供給が「現に不足」し、又は「蓋然性が特に高い」場合、厚労大臣は「製造等計画」(増産計画など)の作成・届出を指示できます。

計画に従わない、あるいは指示に従わない場合、国はその旨を「公表」できる とされており、企業のレピュテーションにも関わる重い責務となります。

実務への影響

第4弾・第5弾で解説した薬機法上の「特定医薬品供給体制管理責任者」 は、まさにこの医療法に基づく行政からの指示・要請に対応するための社内体制(供給体制の管理、計画策定、関係者との連携) を統括する役割を担うことになります。

特に「重要供給確保医薬品」に指定された品目を持つ製造販売業者は、平時から供給リスクを監視し、行政から「供給不足防止措置計画」や「製造等計画」の策定を指示された場合に、直ちに具体的な計画(例:在庫戦略、生産ラインの増強、代替原料の確保策)を提示できる準備が求められます。

また、国はこれらの措置を行う企業に対し、必要な財政上の措置(補助金など)を講ずることができる とも規定されています。

まとめ

2025年の法改正は、医薬品の安定供給について、以下のように薬機法と医療法が両輪で機能する枠組みを構築しました。

  • 薬機法(企業側の体制): 「特定医薬品」を定め、「供給体制管理責任者」の設置を義務化 。供給リスクの把握と報告体制を整備させる。
  • 医療法(行政側の権限): 「供給確保医薬品」「重要供給確保医薬品」を指定 。行政が「指針」 に基づき、製造販売業者に「計画策定(増産含む)」を指示 できるようにする。

医薬品の供給は、もはや一企業の経営判断だけでなく、医療インフラ維持のための公的な責務としての側面が、法的に強く位置づけられたと言えます。

これらの医療法に関する規定は、公布の日(令和7年5月21日)から起算して6ヶ月を超えない範囲内とされていましたが、2025年7月25日に公布された施行期日を定める政令により、2025年11月20日の施行と決まりました。

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※本記事は、2026年5月21日に公布された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第37号)の内容及びそれによって予測される影響について記述しています。法解釈を含む内容については、個別の事案やその後の解釈等により異なる場合があります。正確な情報は必ずご自身でご確認いただくようお願いいたします。

投稿者プロフィール

粂 昌治
粂 昌治
1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。