ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事28)

「薬事法の変遷シリーズ」の第1回、第2回では、戦後の混乱期から業界内の激しい調整を経て、現在の薬機法の土台となる「1960年(昭和35年)薬事法」が誕生するまでの経緯と、その最大の眼目であった「薬剤師法の分離」について解説いたしました。
第3回となる今回は、この1960年に制定された新薬事法が、具体的にどのような規制を新たに盛り込んだのか、その詳細な内容に迫ります。ここで定められたルールの多くは、現在の薬機法実務においても重要な骨格として引き継がれています。
1960年(昭和35年)に全面改正された薬事法は、単に法律の構造を整理しただけでなく、高度経済成長期へと向かう日本社会において、医薬品の品質・有効性・安全性を確保するための具体的なハードルを数多く設けました。当時の主な制定内容は以下の通りです。
1. 登録制から「許可制」への移行と、販売業態の明確な区分
第2回でも触れましたが、薬局、医薬品の製造業、そして販売業の開設要件が、従来の「登録制」からより厳格な「許可制」へと移行しました。単に書類を出せばよいという仕組みから、行政が定める「許可基準」を満たさなければ業として営むことができない仕組みへと転換したのです。
また、これと同時に、消費者へ医薬品を供給する「販売業」の区分が法的に明確に位置付けられました。
- 一般販売業(すべての医薬品を販売できる業態)
- 薬種商販売業(薬剤師不在でも、指定された一定の医薬品を販売できる業態。旧二号業者)
- 配置販売業(消費者の家庭に医薬品をあらかじめ預け、使用した分だけ代金を回収する伝統的な「置き薬」の業態)
- 特例販売業(薬局等が少ない地域等で、品目を絞って販売を認める業態)
このように販売網のチャネルを区分けしたことは、現在の「店舗販売業」や「配置販売業」といった業態区分の直接的なルーツとなっています。
2. 「医薬部外品」制度の創設
1960年薬事法の非常に大きなトピックの一つが、「医薬部外品」という新しいカテゴリーの創設です。 それまでは「医薬品」か「化粧品」かという二極的な分類でしたが、人体に対する作用が緩和で、予防などを目的とする製品(例:薬用化粧品、殺虫剤、染毛剤など)を「医薬部外品」として新たに定義しました。これにより、医薬品ほどの厳格な管理は求めないものの、一定の効能効果を標榜できるという、日本の薬事規制における独特で柔軟な製品カテゴリーが誕生しました。
3. 安全性と信頼性を担保する「表示義務」の強化
製品のトレーサビリティ(追跡可能性)と情報公開の観点から、医薬品等の容器や被包への記載事項が厳格化されました。 特に、「製造番号(ロットナンバー)」や「成分分量」の表示が法律で義務付けられたことは重要です。これにより、万が一不良品が発生した際の回収体制の基礎ができ、消費者がどのような成分の薬を服用しているのかを客観的に把握できるようになりました。
4. 誇大広告の禁止と「特殊疾病」への広告制限
消費者の保護を目的として、広告に関する規制も強化されました。 現在の薬機法第68条にも通じる「承認前医薬品の広告制限」が設けられ、未承認の薬をあたかも効果があるかのように宣伝することが禁止されました。 さらに、「がん等の特殊疾病用医薬品」に関する一般大衆向けの広告も制限されました。これは、当時の医学的知見において素人による自己判断での治療が極めて危険である疾病に対し、患者の不安に漬け込むような誇大広告を防ぐための強力な歯止めとなりました。
次なる法改正の波へ(次回予告)
1960年の薬事法は、上記のように「許可基準の整備」「医薬部外品の創設」「表示や広告の適正化」、そして「薬剤師法の分離」というパッケージによって、現代に通じる極めて完成度の高い規制フレームワークを作り上げました。
しかし、法律が完成したからといって、薬害や科学技術の進歩が立ち止まってくれるわけではありません。1960年代以降、サリドマイド事件やスモン事件といった悲惨な薬害事件が社会問題化し、薬事法は「いかにして有効性と安全性を科学的に評価・再評価するか」というさらに高度な命題を突きつけられることになります。
次回の第4回からは、この1960年薬事法を起点として、その後どのような社会的背景のもとで「薬事法改正」が繰り返され、現代の厳格な承認制度(GCP、GMP、GLPなどの導入)へと進化していったのか、その歴史的変遷の第二幕に迫ります。ぜひご期待ください。
📌 ファーマ行政書士事務所では、薬学出身の行政書士が、前職(製薬企業の研究職)での経験を活かし、薬事法務コンサルティングを中心とした専門性の高いサポートを提供しております。薬機法に関するご相談や、医薬品・化粧品ビジネスの許認可、事業承継など、お困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

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1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。
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