ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事27)

1960年(昭和35年)に全面改正された薬事法は、医薬品等の安全かつ有効な使用を通じて保健衛生の向上を図るという、現代に続く薬事制度の最も基本となる枠組みを確立しました。その制定当時の主要な規制内容や議論の焦点は、以下の通りです。

1. 「薬剤師法」の分離独立と職能の明確化

1960年の法改正における最大の特徴の一つは、これまで薬事法の中に混在していた薬剤師に関する規定が分離され、新たに単独の「薬剤師法」として制定されたことです。 当時、日本薬剤師協会は、医薬分業を実質的に進め、国民からの評価を高めるためには、薬剤師本来の使命(調剤を含む薬事及び保健指導)を明確にする必要があると強く訴えていました。この強い要望が反映され、薬剤師の身分と職能を規定する独立した法律が誕生しました。

2. 薬局・医薬品販売業の「許可制」への移行

品質や安全性の確保、そして許認可規制のあり方を見直すため、薬局や医薬品販売業の開設にかかわる規制が強化されました。旧法下では「届出制」であったものが、1960年の新法では都道府県知事による「許可制」へと改められました。これにより、一定の基準を満たした者のみが業として医薬品を取り扱うことができるという、現在の厳格な管理体制の基礎が築かれました。

3. 見送られた「適正配置(距離制限)」と「強制加入」

一方で、業界団体からの要望のすべてが実現したわけではありませんでした。当時の議論で特に紛糾したのが以下の点です。

  • 薬局の適正配置(距離制限): 日本薬剤師協会は、不当な販売競争を防ぐために薬局の適正配置(新規開設時の地域・距離制限)を強く求めました。しかし、厚生省側は「職業選択の自由や居住の自由といった基本的人権を侵害するおそれがある」としてこれを拒否し、1960年法では法制化が見送られました(※この問題は火種として残り、のちに1963年の議員立法による一部改正で距離制限が導入されることになります)。
  • 薬剤師会の法制化(強制設立・強制加入): 弁護士会のように薬剤師会への加入を義務付ける法制化も要望されましたが、こちらも「結社の自由」に抵触するとの判断から認められませんでした。

4. 製造・販売に関する総合的な規制の確立

新薬事法では、医薬品だけでなく、医薬部外品や化粧品、医療用具(現在の医療機器)についても、製造から販売に至るまでの詳細な規定が整備されました。これにより、医薬品等が消費者の手に渡るまでの各段階において、行政による監督と業者の責任が明確化されました。

1960年の薬事法は、業界団体の思惑と行政の法的・憲法的な判断が激しくぶつかり合う中で生み出された「妥協と調整の産物」でもありました。しかし、許可制の導入や薬剤師の独立法整備など、この時に築かれた基本骨格は、名称を「薬機法」と変えた現在に至るまで、日本の薬事行政の揺るぎない土台として機能しています。

📌 ファーマ行政書士事務所では、こうした薬事規制の歴史的背景も踏まえながら、現代の複雑な薬機法実務、ビジネスモデルの適法性判断、許認可取得などのサポートを行っております。薬事規制に関するご相談は、ぜひお気軽にファーマ行政書士事務所までお問い合わせください。

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投稿者プロフィール

粂 昌治
粂 昌治
1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。