ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事12)

2025年5月21日に公布された薬機法改正(令和7年法律第37号)について解説する本シリーズ。第12回となる今回は、医薬品製造業や体外診断用医薬品製造業の現場に大きな影響を与える「製造管理者等の資格要件の緩和」について取り上げます。
これまで、医薬品の製造所の責任者(医薬品製造管理者)は、原則として「薬剤師」でなければなりませんでした。しかし、近年の薬剤師不足や製造現場の実態を踏まえ、今回の改正でこの要件に重要な見直しが入りました。
1. 改正のポイント:薬剤師要件の例外が拡大
今回の改正では、薬機法第17条第5項などが改正され、一定の条件下で薬剤師以外の技術者を製造管理者に選任できるようになります。
従来のルール
医薬品の製造所では、原則として薬剤師を製造管理者として置かなければなりませんでした。薬剤師以外の技術者が認められるのは、「その製造の管理について薬剤師を必要としない医薬品を製造する製造所」や「保管のみを行う製造所」など、限定的なケースに限られていました。
改正後のルール
今回の改正により、上記に加え、以下のケースでも薬剤師以外の技術者を製造管理者に代えることが可能となります。
「薬剤師を置くことが著しく困難であると認められる場合その他の厚生労働省令で定める場合」
これにより、薬剤師の確保が難しい地域や業態においても、適切な能力を有する技術者がいれば、製造業務を継続・管理できる道が開かれます。
2. 対象となる製造業の範囲
この緩和措置は、以下の製造業に適用されます。
- 医薬品製造業(改正法第17条第5項関係)
- 体外診断用医薬品製造業(改正法第23条の2の14第10項関係)
※「体外診断用医薬品製造管理者」についても、同様に薬剤師要件の例外規定が設けられました。
3. 「薬剤師以外の技術者」とは?
「薬剤師以外の技術者」が具体的にどのような要件(学歴、実務経験等)を求められるか、また「著しく困難であると認められる場合」の具体的な基準については、今後制定される厚生労働省令で詳細が定められます。
しかし、法の趣旨として「品質の確保された医薬品等を国民に迅速かつ適正に提供していく」ことが掲げられている以上、単に人がいないから誰でも良いというわけではなく、製造管理・品質管理に関して薬剤師と同等の十分な知識と経験を有することが求められることは間違いありません。
4. 企業が準備すべきこと
この改正は、2026年5月1日(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和7年政令第271号)、2025年7月25日公布)から施行されます。
製造業者の皆様は、以下の点について準備を進めておくことをお勧めします。
- 採用計画の見直し: 薬剤師の採用が難航している製造所では、技術者の登用も視野に入れた人員計画を検討する。
- 育成計画の策定: 社内の技術者が「製造管理者」としての要件を満たせるよう、教育訓練や実務経験の蓄積を計画的に行う。
- 省令のウォッチ: 具体的な要件が示される厚生労働省令の公布を注視する。
まとめ
今回の改正は、薬剤師不足という社会課題に対応しつつ、医薬品の安定供給を維持するための現実的な措置と言えます。一方で、薬剤師不在となる場合でも、これまでと同等以上の品質管理体制を維持することが企業の責務となります。
📌 ファーマ行政書士事務所では、薬機法改正対応や薬事に関する法令対応についてのご相談を承っています。本ブログのような法改正に伴う手順書の見直しや、製造管理者等の変更届出等の手続きもサポートしております。お気軽にご相談ください。
※本記事は、2026年5月21日に公布された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第37号)の内容及びそれによって予測される影響について記述しています。法解釈を含む内容については、個別の事案やその後の解釈等により異なる場合があります。正確な情報は必ずご自身でご確認いただくようお願いいたします。
投稿者プロフィール

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1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。
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