ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事11)

2025年5月に公布された薬機法改正(正式名称:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律)。これまで10回にわたり、品質保証体制の強化や安定供給に関する改正ポイントを解説してきました。
第11弾となる今回は、製造販売業者の「安全管理業務(GVP)」に直結する「医薬品リスク管理計画(RMP)」の法定化について取り上げます。
これまで通知レベル(行政指導)で運用されてきたRMPが、ついに法律上の「義務」として明記されました。 今回の改正は、開発段階から市販後まで一貫した安全対策(ライフサイクルマネジメント)をより強固にするための重要な変更です。
本ブログでは、その詳細と実務への影響を解説します。
🏛 改正の背景:なぜ「法定化」が必要なのか
これまでも、新医薬品等の承認申請時や市販後において、「医薬品リスク管理計画(RMP)」の策定と実施が求められてきました。しかし、これはあくまで「通知」に基づく運用であり、法律上の直接的な義務ではありませんでした。
今回の改正では、医薬品の副作用情報の収集・分析・評価といった「市販後の安全対策」をより確実なものにするため、このRMPの策定と実施を法律(薬機法)上の明文の義務へと格上げしました。
これにより、行政による監視指導の根拠が明確化されるとともに、企業側にはより厳格なコンプライアンスが求められることになります。
⚖️ 改正のポイント:新設された「計画策定」と「報告義務」
今回の改正で、薬機法第68条の2(医薬品の安全性及び有効性に係る情報収集等に関する計画の作成等)が新設されています。主なポイントは以下の3点です。
1.「医薬品リスク管理計画」の策定義務(第68条の2第1項)
厚生労働大臣が指定する医薬品(主に新医薬品等と推測されます)の製造販売業者は、当該医薬品の安全性及び有効性の確保を図るため、「情報の収集、調査、試験その他医薬品を使用することに伴う副作用の発生等の最小化を図るための対策の実施に関する計画」(いわゆるRMP)を作成しなければならないとされました。
2.厚生労働大臣への「報告」の義務化(第68条の2第2項)
作成した計画は、厚生労働大臣に報告しなければなりません。また、計画を変更した場合も同様に報告が必要です。これまでは審査の過程で確認されていましたが、法的な「報告事項」となることで、手続き上の重みが増します。
3.実施状況の報告(第68条の2第4項)
計画に基づく業務の実施状況についても、厚生労働大臣へ報告することが求められるようになります。
💬 実務への影響:企業が取り組むべきこと
この改正を受けて、製造販売業者(特に医薬品安全管理責任者・薬事部門)は以下の対応が必要になります。
- GVP手順書(SOP)の見直し RMPの策定・届出・変更管理が法定義務となったことに伴い、社内のGVP手順書に「法第第68条の2に基づく計画の策定および報告」に関する手順を明確に組み込む必要があります。
- 安全管理責任者の関与の強化 今回の改正法では、医薬品安全管理責任者がこの計画に基づく業務を統括することが前提となっています(第68条の2第6項)。第1弾ブログで解説した「責任者の法的地位向上」と合わせ、医薬品安全管理責任者がRMPの運用に実質的な責任を持つ体制を構築しましょう。
- 製造販売承認申請との連携 RMPは承認審査と密接に関わります。開発・薬事・安全管理の各部門が連携し、承認取得のタイミングに合わせて遅滞なく法的な報告を行えるよう、業務フローを再確認してください。
まとめ
- 改正点: RMP(リスク管理計画)の策定・届出が、通知運用から「法律上の義務」へ格上げされた。
- ポイント: 厚生労働大臣への「計画の届出」と「実施状況の報告」が必須となる。
- 対応: GVP手順書の改訂、および医薬品安全管理責任者を中心とした確実な運用体制の整備が必要。
安全対策の強化は、患者さんの安心に直結する製薬企業の最重要責務です。 改正法の施行に向け、早めの準備を進めていきましょう
なお、これらの規定は、公布の日(令和7年5月21日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行される予定です。
📌 ファーマ行政書士事務所では、薬機法改正対応や薬事に関する法令対応についてのご相談を承っています。
※本記事は、2026年5月21日に公布された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第37号)の内容及びそれによって予測される影響について記述しています。法解釈を含む内容については、個別の事案やその後の解釈等により異なる場合があります。正確な情報は必ずご自身でご確認いただくようお願いいたします。
投稿者プロフィール

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1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。
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