ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事10)

2025年5月21日に公布された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第37号)について解説する本シリーズ、第10弾です。

今回は、昨今の医薬品業界を揺るがせた「品質不正問題」への直接的な回答とも言える「製造販売業者による製造所管理の強化」に焦点を当てます。

ジェネリック医薬品メーカーなどで相次いで発覚した製造不正事案。その背景には、製造販売業者(GQP)と製造業者(GMP)の間の「コミュニケーション不全」や「管理監督の形骸化」があったと指摘されています。今回の改正では、これらを防止するための法的な手当てがなされています。

🏛 改正の背景:なぜ「管理強化」が必要なのか

これまでも、製造販売業者は製造所を管理監督する責任を負っていました(GQP省令等)。しかし、近年の不正事案では、以下のようなケースが散見されました。

  • 製造所が、製造販売業者に無断で製造手順を変更していた(承認書と異なる製造)。
  • 製造販売業者が、製造所からの連絡を形式的に処理し、現場の実態を把握していなかった。
  • 品質問題が生じた際の情報共有が遅れ、回収対応等が後手に回った。

こうした事態を受け、今回の改正法では、国民の信頼を回復し、品質が確保された医薬品を安定的に供給するために、「製造販売業者と製造業者の連携」と「コンプライアンス遵守体制」を法令レベルで強化することとなりました。

⚖️ 改正のポイント:第18条に新設された義務

今回の改正では、薬機法第18条(医薬品の製造販売業者等の遵守事項等)に新たな規定が追加され、製造販売業者と製造業者の責務がより明確になりました。

1.製造販売業者による「定期的な確認」の義務化(第18条第3項)

製造販売業者は、製造所における製造管理・品質管理が「適正に遂行されていること」を定期的に確認し、その結果を記録・保存しなければならないとされました。 これまでもGQP省令に基づき監査等は行われてきましたが、法律(第18条第3項)で「確認義務」が明記されたことで、より厳格な実効性が求められます。

2.製造販売業者による「情報の収集」への努力義務(第18条第4項)

製造販売業者は、製造所(特に外部委託先)における製造管理・品質管理の実施状況に係る記録その他の情報を収集するよう努めなければならないとされました。 「報告を待つ」だけでなく、能動的に現場の情報を集める姿勢が法律上求められます。

3.製造業者による「基準適合」の義務化(第18条第7項)

製造業者は、厚生労働省令で定める基準(GMP等)に基づき、製造管理及び品質管理を行わなければならないことが、法律(第18条第7項)上の直接の義務として明記されました。これにより、製造業者自身の法令遵守責任も強化されています。

4.変更管理における連携強化

今回の改正条文(第18条第3項・第4項)には、「変更管理」という言葉は直接出てきませんが、実務上は「変更管理の連携強化」が極めて重要なテーマとなります。

なぜなら、第18条第3項・第4項で確認・収集すべき「製造管理及び品質管理」の中核には、製造手順や設備の「変更管理」が含まれるからです。 過去の不正事案の多くは、製造所が独断で行った「変更」が製造販売業者に伝わっていなかったことに起因します。 したがって、法律が求める「適正な遂行の確認(第3項)」や「情報の収集(第4項)」を果たすためには、製造所での変更情報を製造販売業者がタイムリーかつ正確に把握する仕組み(連携体制)を構築することが、必然的に求められることになるのです。

💬 実務への影響:企業が取り組むべきこと

この改正を受けて、実務担当者(特に品質保証部門の方)は、以下の点を見直す必要があります。

  • 取決め書(Quality Agreement)の再点検

GQP/GMP取決め書において、「変更時の連絡ルート」「逸脱発生時の報告期限」「定期的な品質レビュー(PQR)の共有方法」が具体的かつ実効性のある内容になっているか確認しましょう。形だけの契約書では、改正法の趣旨に対応できません。

  • 「現場を知る」監査の実施

書面監査やリモート監査だけでなく、実際に製造現場(製造所)へ足を運び、担当者と対話する機会を設けることが重要です。不正の兆候は、書類上の整合性よりも、現場の「空気感」や「整理整頓状況」、「担当者の理解度」に現れることが多いからです。

  • 心理的安全性の確保と通報体制

製造所の現場担当者が、ミスや違和感を隠さずに報告できる関係性を築けているでしょうか? 製造販売業者として、製造所からの「バッドニュース」を歓迎し、共に解決策を探る姿勢を示すことが、隠蔽を防ぐ第一歩となります。

まとめ

今回のテーマ「製造販売業者による製造所管理の強化」をまとめます。

  • 改正点: 薬機法第18条に、製造販売業者の「定期確認義務(3項)」「情報収集努力義務(4項)」、製造業者の「基準遵守義務(7項)」が新設された。
  • ポイント: 「変更管理」等の情報が製造販売業者に正確に伝わる連携体制の構築が、法令遵守の鍵となる。
  • 対応: 取決め書の見直し、実効性のある監査、そして「何でも言える」信頼関係の構築が急務。

法令が変わることは、「仕事のやり方」を変えるチャンスでもあります。 これを機に、委託先とのパートナーシップを再構築し、より強固な品質保証体制を目指しましょう。

なお、これらの規定は、公布の日(令和7年5月21日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日に施行される予定です。

📌 ファーマ行政書士事務所では、薬機法改正対応や薬事に関する法令対応についてのご相談を承っています。

👉 [お問い合わせはこちら]

※本記事は、2026年5月21日に公布された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第37号)の内容及びそれによって予測される影響について記述しています。法解釈を含む内容については、個別の事案やその後の解釈等により異なる場合があります。正確な情報は必ずご自身でご確認いただくようお願いいたします。

投稿者プロフィール

粂 昌治
粂 昌治
1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。