ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事30)

「薬事法の変遷シリーズ」の第4回では、1960年の全面改正で残された宿題ともいえる「薬局の距離制限」が、政治的な動きの中で法制化された1963年改正のドラマを紐解きました。
続く第5回となる今回は、日本の薬事行政が「業の規制」という枠組みから、現在の薬機法の真髄である「科学的根拠に基づいた有効性・安全性の確保」へと劇的に進化を遂げるきっかけとなった、1979年(昭和54年)の薬事法大改正について解説します。
1960年に誕生した新薬事法は、医薬品の品質確保や販売業の許可制など、現代につながる精緻な法的枠組みを構築しました。しかし、当時はまだ「新薬の有効性や安全性をいかに科学的に審査し、市販後も監視し続けるか」という点において、法的な規定が十分ではありませんでした。
1. 1960年法の限界と「薬害」の発生
1960年代から1970年代にかけて、日本は高度経済成長の影で、サリドマイド事件やスモン事件といった悲惨な薬害事件という大きな試練に直面しました。 これらは、当時の科学水準における審査の限界や、市販後の安全対策の欠如を浮き彫りにしました。この事態を受け、1967年(昭和42年)には「医薬品の製造承認等に関する基本方針」という薬務局長通知が出され、行政指導のレベルで審査の厳格化が試みられましたが、法的な強制力には限界がありました。
2. 19年ぶりの抜本改正(1979年改正)の実現
大きな転換点となったのは、1970年代後半、スモン訴訟の全面和解に向けた動きの中で、国が薬事制度の抜本的な見直しを迫られたことでした。 1960年の全面改正から19年。1979年(昭和54年)、ついに「国民の生命と健康を守る」という目的をより強固にするための大改正が行われました。この改正こそが、現代の製薬実務の「聖典」ともいえる数々の制度を誕生させたのです。
3. 1979年改正の3つの大きな柱
この改正によって導入された制度は、現在も製薬企業の実務において極めて重要な役割を果たしています。
① 承認審査の整備と「再審査制度」「再評価制度」の法制化
日本薬局方収載品目も承認対象とするなど承認に関する規定が整備されました。また、承認後の安全性を確認するため、「新医薬品等の再審査制度」が法制化されました。さらに、科学技術の進歩等を踏まえ、過去に承認された医薬品であっても最新の知見で有効性と安全性を見直す「医薬品再評価制度」も法律に位置付けられました。
② 治験の適正化と副作用等情報の収集
開発段階の安全性を担保するために治験計画の届出が義務化されたほか、製造業者等から販売業者等に対する情報提供が努力義務とされました。これらは現在のGVP(製造販売後安全管理の基準)等につながる重要な一歩です。
③ 使用期限・成分表示の義務化
消費者の安全な使用を守るため、医薬品等の使用期限や、化粧品等の成分表示が法律で義務化されました。
④ GMP(製造管理および品質管理の基準)の法的根拠の整備と「省令化」
単に工場の構造設備(ハード)が整っていればよいという従来の仕組みから、ソフト面での製造・品質管理を規定するため、厚生大臣が基準を定める法的根拠が設けられました。これにより翌1980年、それまで行政指導であったGMPが「GMP省令」として制定されました。この時点ではまだ遵守すべき基準(努力義務)にとどまっていましたが、のちの「許可要件化」へとつながる決定的な布石となりました。
1979年の大改正は、日本の薬事法が「産業を管理する法」から、名実ともに「生命を守るための科学の法」へと脱皮した歴史的な瞬間でした。
次回の第6回では、日本の医薬品市場が貿易摩擦や市場開放問題という新たな国際的要請に直面し、世界の規制とリンクし始める契機となった、1983年(昭和58年)の薬事法改正(外国特例承認制度の導入など)へと歴史の針を進めたいと思います。
📌 ファーマ行政書士事務所では、こうした歴史の教訓や法制度の変遷を深く理解し、単なる手続き代行に留まらない、企業の信頼性を支えるパートナーとしての支援を行っております。薬事規制に関するご相談は、ぜひファーマ行政書士事務所までお問い合わせください。
投稿者プロフィール

-
1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。
最新の投稿
ブログ2026年5月4日ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事30)
ブログ2026年4月28日ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事29)
ブログ2026年4月20日ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事28)
ブログ2026年4月13日ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事27)

