ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事23)

全4回でお届けしてきた「日本の薬事規制の変遷」も、今回が最終回です。今回は、明治期の変革がもたらした産業構造の変化と、それが現代の「薬機法」にどのように結実しているのかを総括します。

■ ギルドから近代的な製薬企業へ

明治の変革を経て、旧来の薬種商は、西洋薬の輸入・販売を担う「卸売業」と、自ら西洋技術を導入して製造を行う「近代的な製薬業」へと分化していきました。

興味深いのは、大坂・道修町の「薬種中買仲間」やそこから分家した商人たちの中から、武田薬品、田辺三菱製薬、小野薬品、塩野義製薬、アステラス製薬(藤沢薬品)といった、今日の日本を代表する大手製薬企業が数多く誕生していることです。江戸時代に培われた「信用と伝統」、そして自ら民間試験会社を作るような「自主規制のDNA」が、そのまま近代産業の強固な礎となったのです。

■ 「安全性」への転換と現代の薬機法

戦後、1961年の「国民皆保険」の達成により医薬品需要は飛躍的に増大し、日本の製薬産業は世界的なレベルへと発展しました 。

しかし一方で、サリドマイド事件やスモン事件といった悲しい薬害事件が立て続けに発生します。これにより、従来の「品質」中心の規制から、「安全性の確保」が最も重大な課題として認識されるようになりました。1960年の「薬事法」制定以降、副作用報告の義務化や再審査制度の導入など、法整備が幾度も重ねられてきました。1970年代から導入されたGMP(製造・品質管理の国際標準)も、元を辿れば道修町の「自主検査」から続く品質へのこだわりの系譜と言えます 。

■ 結論:永続する青写真

江戸時代の「信頼に基づく自主規制」から、明治時代の「科学に基づく国家管理」への移行。この明治期に確立された以下の3つの原則は、現代の薬事規制の永続的な青写真となりました。

  1. 国家による医薬品の統制
  2. 国家薬局方による科学的基準の採用
  3. 専門職(薬剤師)や事業者(製造業・販売業)の法的定義

現在私たちが実務で扱う『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)』もまた、この明治の変革期に構築された法的・思想的構造の「直系の子孫」なのです。今年の改正薬機法に直面する今こそ、この歴史的背景を知ることで、規制の真意をより深く理解できるのではないでしょうか。

📌 ファーマ行政書士事務所では、薬学出身の行政書士が、前職(製薬企業の研究職)での経験を活かし、薬事法務コンサルティングを中心とした専門性の高いサポートを提供しております。薬機法に関するご相談や、医薬品・化粧品ビジネスの許認可、事業承継など、お困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください。

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投稿者プロフィール

粂 昌治
粂 昌治
1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。