ファーマ行政書士事務所ブログ(薬事9)

2025年5月21日に公布された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第37号)(以下、改正法)を解説する本シリーズ、第9弾となります。

これまでの連載では、薬機法や医療法における「規制」の強化やルールの見直しについて解説してきましたが、今回の改正法にはもう一つ、産業振興の観点から極めて重要な柱が含まれています。

それが、改正法第7条による「国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所法(以下、医薬基盤研法)」の一部改正です。

日本の医薬品産業が直面する「ドラッグ・ロス」と「供給不安」。 この2つの危機に対し、単なる規制強化だけでなく、国が財政面から産業構造の転換を支援するための法的枠組みが整備されました。 今回は、製造販売業者やベンチャー企業の皆様にとって新たな事業機会となり得る、2つの新基金について解説します。

改正の背景:日本を「創薬の地」として再興するために

現在、日本国内では「ドラッグ・ロス」が深刻な問題となっています。 これは単に「外国で開発・販売されている医薬品が、日本では開発・販売されない」という現象面だけの問題ではありません。その本質は、日本国内での研究開発力が低下し、革新的な医薬品を自ら生み出す力が弱まっていること(開発の空洞化)にあります。

また、後発医薬品(ジェネリック)においては、薄利多売のビジネスモデルと非効率な生産体制が限界を迎え、品質不備や供給停止が頻発しています。

これらの課題を解決するため、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN:ニビオン)の業務範囲を期間限定で拡大し、「日本発のイノベーション創出」と「後発医薬品産業の構造改革」を、基金を通じて強力に支援することとなりました。

改正のポイント①:革新的医薬品等実用化支援基金の創設

一つ目は、日本の創薬力強化を目的とした「革新的医薬品等実用化支援基金」の創設です(医薬基盤研法附則第17条第1項、第20条)。

【目的】

日本では、創薬スタートアップへの支援が手薄であり、他国と比べてもその分野が弱く、上市に至りにくい状況が生じています。こうした状況を踏まえ、官民連携して継続的に創薬スタートアップから革新的新薬を生み出す創薬基盤・インフラの強化を目指します。

【支援の対象と内容】

ニビオンに基金を設置し、国からの補助金等を原資として、以下の事業を行う「革新的医薬品等実用化支援事業者」に対して助成や支援を行います 。

  • 創薬クラスターキャンパス整備事業(創薬支援施設整備事業、創薬・実用化促進プログラム等支援事業)
  • 革新的な医薬品等の実用化に取り組む者に対し当該実用化に必要な支援を行う事業

これにより、海外からの導入を待つのではなく、日本国内で革新的な医薬品を開発・実用化できる環境を整備します。なお、この支援を受けるためには、行おうとする事業の内容等、省令に規定された事項を記載した申請書を厚生労働大臣に提出し、事業の「認定」を受ける必要があります。

改正のポイント②:後発医薬品製造基盤整備基金の創設

二つ目は、後発医薬品産業の構造的な課題解決を目指す「後発医薬品製造基盤整備基金」の創設です(医薬基盤研法附則第17条第2項、第27条)。

【目的】

後発医薬品業界は、比較的小規模で、生産能力が限定的な後発医薬品企業が多い中で、少量多品目生産などの非効率な生産構造があること、品質不良リスクや収益の低下などにつながっていること、製造ラインに余力がなく増産対応が困難であること等の構造的な問題があります。 そのため、後発医薬品産業全体の構造的問題を解決し、品質の確保された医薬品の安定供給を目指します。

【支援の対象と内容】

同様にニビオンに基金を設置し、以下の「製造基盤整備措置」を行う後発医薬品製造販売業者等に対して助成を行います 。

  • 自社が製造する品目の製造工程と他の後発医薬品製造販売業者が製造を行う品目の製造工程を統合し、これらの品目の供給能力を強化する取り組み。
  • 他の後発医薬品製造販売業者が製造を廃止した品目と有効成分等が同一性を有する自社品目を製造するための設備を新設または増設し、その品目の供給能力を強化する取り組み。
  • その他、他の後発医薬品製造販売業者と連携して、後発医薬品の製造の基盤を整備する取り組み。

この支援を受けるためには、製造基盤整備措置の内容等、省令に規定された事項を記載した申請書を厚生労働大臣に提出し、製造基盤整備措置の「認定」を受ける必要があります。認定にあたっては、事業再編を伴う場合には公正取引委員会との協議が行われるなど、産業全体の再編を促す仕組みも盛り込まれています。

※国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所が行う国立研究開発法人医薬基盤・健康・ 栄養研究所法附則第十七条第一項及び第二項に規定する業務 に関する省令 第3条

施行時期

この「医薬基盤研法」の改正規定は、公布の日(2025年5月21日)から起算して6月を超えない範囲内で施行すると規定されていましたので、2025年7月25日に公布された施行期日を定める政令に基づき、2025年11月20日より施行されています。

まとめ

第9弾では、薬機法改正とセットで行われた「医薬基盤研法」の改正による2つの新基金について解説しました。

  1. 革新的医薬品等実用化支援基金: 国内の創薬エコシステム構築を支援
  2. 後発医薬品製造基盤整備基金: ジェネリック産業の構造改革と安定供給を支援

今回の改正は、規制当局が単なる「監視者」にとどまらず、産業の育成と安定化を支える「伴走者」としての役割を強化したことを意味します。

製造販売業者やベンチャー企業の皆様においては、これらの新制度を自社の成長や設備投資、事業再編のチャンスとして活用できるよう、具体的な公募要領等の情報収集を進めていくことが推奨されます。

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※本記事は、2026年5月21日に公布された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第37号)の内容及びそれによって予測される影響について記述しています。法解釈を含む内容については、個別の事案やその後の解釈等により異なる場合があります。正確な情報は必ずご自身でご確認いただくようお願いいたします。

投稿者プロフィール

粂 昌治
粂 昌治
1987年塩野義製薬株式会社に入社。2011年まで中央研究所にて、感染症領域および癌・疼痛領域の創薬研究に従事。その間、1992年には、新規β-ラクタム系抗菌薬の創製で博士(薬学)を取得。
1998年から1年間、米国スクリプス研究所に留学。帰国後、分子標的抗がん薬の探索プロジェクトやオピオイド副作用緩和薬の探索プロジェクトを牽引し、開発候補品を創製。2011年10月、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社に異動となり、新規に創設された化学支援部門を担当し、軌道に乗せる。2013年には塩野義製薬株式会社医薬研究本部に戻り、外部委託管理、契約相談、化学物質管理などの研究支援業務を担当。2020年から3年間、創薬化学研究所のラボマネージャーとして、前記研究支援業務を含む各種ラボマネジメントを担当。2023年3月に定年退職。
2023年4月に、薬事・化学物質管理コンサルティングを行う行政書士として、ファーマ行政書士事務所を開業し、現在に至る。